実家はなぜだか乾燥している。新築だからなのか、床暖房のせいなのか、大量に置かれた本のせいなのかわからないが、たぶん砂漠や南極のような極端な場所よりも乾燥している。町で唯一の家電屋で買った加湿器もほとんど気休めのような性能だった。床をうまく掴むことができず、足の裏が疲れるような気さえする。部屋の中でスケート靴を履いているようなものだ。私の生活の拠点はここからもう移動してしまった。かつて私が読んでいた本や、取っていたノートはそのままになっている。
加湿器を買った家電屋には旧友のお母さんが働いている。本人に会う前にお母さんからほとんどの情報を聞いてしまった。つまり、最近痩せたこととか、炭水化物を抜いていることだとか、そんな話まで会う前から分かってしまう。「炭水化物抜いてるんでしょ?」と聞くと「なんで知ってんの」と彼は言う。なんて町だと私は思う。そんなふうにして私が帰ってきたことも誰かを通じて友人の耳に入るようになっている。友人たちはコンビニでタバコを吸っているいて、合流するとスナックにいって酒を飲む。いままで学校や公園だったのが場所と時間を移しただけだ。
仕事がない日は普段より長く眠る。一つしかない窓はカーテンで塞がれているが、その隙間から射した光に気が付いて目が覚める。妻はまだ寝ていて、起こさないようにゆっくりとベットから体をずらす。まるでサンドイッチからこぼれるレタスみたいだ。階段を降りてキッチンにいくと父がカフェオレを作っている。小さな鍋を火にかけて、表面の様子を見ている。その鍋は持ち手の木が痩せて緩くなっており、かろうじてネジ一本で留まっている。自宅に併設された事務所に持っていくために慎重にポットに移し替える。いつもやっている作業のようでひとつひとつの動作にゆとりがある。